2026年7月25日

踏み出し足と蹴り出し足という考え方

 

人間の歩行では、足が前に出る「踏み出し」と、後ろで地面を押す「蹴り出し」という二つの動作が交互に繰り返されます。理想的には、右足と左足が均等にこれらの役割を果たすべきですが、実際には多くの方が無意識のうちにどちらか一方の足を踏み出し足として、もう一方を蹴り出し足として使う癖が定着しています。

例えば、いつも右足で地面を蹴り出し、左足で体重を受け止めるという使い方をしていると、右足は後ろにある時間が長く、左足は前にある時間が長くなります。この時間的な偏りが、関節の動きや筋肉の使い方に大きな影響を与え、やがて痛みや不調として表面化してくるのです。

踏み出し足と蹴り出し足の特徴

 

●踏み出し足として使われる足に起きること

 

踏み出し足として使われる足は、常に前方に体重を乗せる役割を担っています。この時、股関節は屈曲(曲がる)、外転(外に開く)、外旋(外にねじれる)という動きが入りやすくなります。骨盤も反対方向に回転するため、股関節の前側や外側の筋肉が硬くなりやすく、逆に内側に閉じたり内にねじったりする動きが苦手になっていきます。

また、足が前に設置する時間が長いということは、足裏のアーチが潰れる時間も長いということです。そのため、踏み出し足として使われる側は扁平足(へんぺいそく)になりやすい傾向があります。衝撃を吸収するために足首が背屈(つま先が上がる方向)し、足のアーチが下に落ちる回内という動きが繰り返されるためです。

さらに、踏み出し足の側では肋骨が開きやすくなります。骨盤が前に出ると、上半身は反対方向に回転するため、肋骨の前側が浮いてくるのです。仰向けに寝た時に片側の肋骨だけが浮いている場合、その側が踏み出し足として使われている可能性が高いと言えます。


●蹴り出し足として使われる足に起きること

 

一方、蹴り出し足として使われる足は、常に後ろで地面を押す役割を担っています。この時、股関節は伸展(伸びる)、内転(内に閉じる)、内旋(内にねじれる)という動きが入りやすくなります。そのため、股関節が常に圧迫されるような状態になり、深くしゃがんだ時や足を曲げた時に股関節の前側が詰まるような感覚が出やすくなります。

蹴り出し足の側では、足全体が外側に荷重しやすくなります。骨盤が後ろに回り、太ももが内にねじられることで、すねの骨は相対的に外にねじられる力が働きます。その結果、太ももの外側やすねの外側に張り感や違和感が出やすくなり、足首も外側に傾く回外という状態になりやすいのです。

また、蹴り出し足の側では足のアーチが高くなる傾向があります。常に地面を蹴る動作を繰り返すため、足裏の筋肉が緊張し、ハイアーチと呼ばれる状態になりやすいのです。お尻の筋肉も発達しやすく、左右のお尻の高さや大きさを比べた時に、蹴り出し足の側の方が大きく見えることがあります。

 

上半身への影響

 

歩行時の足の使い方の偏りは、上半身からも大きな影響を与えます。骨盤と胸郭(肋骨周り)は歩行時に逆方向に回転することで、体幹のねじれを生み出しています。このねじれが適切に起きないと、肩甲骨の位置や動きにも問題が生じます。

踏み出し足の側では、骨盤が前に出るため、上半身は反対方向に回転します。その結果、肩甲骨が後ろに引けて不安定になり、肩が上がりやすくなります。前鋸筋(ぜんきょきん)という肩甲骨を安定させる筋肉が使えなくなるためです。

逆に、蹴り出し足の側では、骨盤が後ろに回るため、上半身は反対方向に回転し、肩甲骨が前に出て巻き肩のような状態になりやすくなります。このように、足の使い方の偏りは全身の姿勢バランスに影響を及ぼすのです。

 

実際の症例から見る歩行パターンの問題


●右膝の痛みを訴えたK様のケース

K様は右膝の前側に痛みを抱えて来院されました。歩行を動画で分析したところ、右足が後ろにある時間が明らかに長く、左足が前にある時間が長いという偏りが確認されました。つまり、右足で地面を蹴り出し、左足で踏み出すという使い方が癖になっていたのです。

右足が蹴り出し足として使われ続けると、股関節が内旋し、大腿骨(太ももの骨)が内にねじられます。すると、その下にあるすねの骨は相対的に外にねじられる力が働き、膝には回旋ストレスがかかり続けます。この状態が長期間続いた結果、K様の右膝には痛みが発生していたのです。

K様には、右足をしっかり前に踏み出す意識を持っていただき、左足で地面をしっかり蹴り出す練習を繰り返していただきました。同時に、右股関節の外旋(外にねじる)筋肉を強化し、左股関節を内旋させる動きを改善するエクササイズも行いました。その結果、歩行パターンが徐々に改善され、右膝の痛みも軽減していきました。


●右膝の横曲変形が見られたM様のケース

M様は右膝の痛みに加えて、すねが外に傾く横曲変形(おうきょくへんけい)が見られました。立った状態で左右の足を比べると、右のすねが明らかに外側に傾いていることが確認できました。

歩行分析を行うと、M様もK様と同様に、右足で蹴り出し、左足で踏み出すという偏ったパターンが定着していました。右足が後ろにある時間が長いため、骨盤が右に回りやすく、太ももも内にねじられ、すねも外にねじられる力が常に働いていたのです。

この外側へのねじれと傾斜が長年続いた結果、M様の右膝には構造的な変形が生じていました。このような変形は一度進行すると元に戻すことは難しいですが、これ以上の悪化を防ぐためには、歩行パターンを改善し、右足を踏み出し足として使えるようにすることが不可欠でした。

M様には、左足で地面をしっかり蹴る練習と、右足を前に大きく踏み出す意識を持っていただきました。また、右股関節の外旋筋を強化し、すねが外にねじられる力を軽減するためのトレーニングも継続していただきました。


●左股関節の不安定さに悩んでいたT様のケース

T様は左股関節がはまっていない感じがする、不安定だという訴えで来院されました。動画分析を行うと、左足を前に出す時に左骨盤が一緒に前に出て、太ももが内側に倒れ込むような動きが見られました。

これは、左足が踏み出し足として使われすぎており、股関節が外旋・外転した状態が続いているために起きる現象です。股関節が適切にはまり込まず、常に緩んだ状態になっているため、体重を乗せた時に不安定さを感じるのです。

T様には、左骨盤を後ろに引く動きを意識していただき、左足を後ろに蹴り出す練習を繰り返していただきました。同時に、左股関節の内転・内旋を促すエクササイズも行い、股関節がしっかりはまり込む感覚を取り戻していただきました。

数週間の継続的なトレーニングの結果、T様の左股関節の安定性は大きく改善し、片足立ちも安定してできるようになりました。

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